Narrative Landscape
個展《Narrative Landscape》
会期:2024年2月9日(金)-3月16日(土)
会場:Clear Gallery Tokyo(東京、六本木)
【概要】
この度CLEAR GALLERY TOKYO は、来田広大の個展「Narrative Landscape」を開催いたします。 弊廊で3年ぶりの個展となる本展では、来田が旅先で購入した古本に引かれていた線を起点に、新たに紡がれる物語とその風景を描いた新作の絵画を発表いたします。
来田は国内外各地でのフィールドワークをもとに、絵画やインスタレーション、野外ドローイング、映像などの媒体で、身体的経験を通じた作品を制作しています。 幼少より登山に親しんできた来田は山をフィールドワークの対象にすることも多く、肉体的精神的にも過酷な状況下で見た風景と、その風景に内包される人間の営みや流れ行く時間を、作品を通して表現してきました。稜線の先にある見えないけれど繋がっている場所に思いを馳せ、定着のしないチョークを主要な画材として、絵筆の他、掌や指で描いていきます。
見えない風景への探求は、その場所で生活する人々や文化と自分との関わりを考察することでもあり、その普遍的な問題意識と共にフィールドワークをもとにした来田の実践は、人類学的思考とも交差していきます。2022年来田がキュレーションをした、ラテンアメリカの先住民コミュニティを研究する研究者と現代アーティストによる展覧会では、メキシコの村で現在も続いている慣習に自身の体験を重ねた作品を制作しました。それは制作を通して、異文化に触れ交流しようとする来田の試みでもあります。 本展の作品群も、言葉も文化も違う見ず知らずの誰かによって引かれた線をたどり、その風景を想像し描くことで、分からないことに対しての関心と共有、来田の言葉でいう「風景に触れる」という意識の顕れです。 一歩一歩、点と点を結ぶように引かれた線は、多くの事柄を差別化し分断してきました。しかしその境界線は何かを隔てるだけではなく、その先には続く世界があることを想起させ、そこに生きる他者の存在が、自己と社会とも繋がっているということを来田の作品は示唆しています。
Statement
数年前にカリブ海に浮かぶ島キューバを旅した際に、道端で一冊の古本を買った。
その古本の文章のところどころには線が引かれていて、最近になってなぜだかその線が気になりだした。鉛筆のBくらいの濃さだろうか、筆圧も強めでしっかりとした線である。
その本は、農村の教育が変わりつつある1960年代のキューバの歴史について当時の写真付きで書かれており、なぜ買ったのかよく覚えていないのだが、線が引かれた箇所を翻訳していると、誰かが引いた線をたどるように、ぼくはもう一度キューバを旅したくなった。
どこの誰がなぜそこに線を引いたかなんて知る由もないが、他者の視点とともに自身のキューバの旅の記憶をたどることは、本の中の線と風景の中の線を重ねながら、そこに横たわる漠然とした距離感や、その間にある境界線をたどるような行為につながるのかもしれない。
しかしそれは、様々な人が自らを主体にして語られる物語に再構成し、風景の物語として関係性をともに編み込んでいくということにならないだろうか。同時に、緩やかな曲線を描きながら不確定的な未来へ進む旅(あるいは作品制作)のあり方や可能性についても考察できたらと思う。
場所と場所、風景と風景をつなげていく旅のなかに、ぼくがキャンバスに線を引き、絵を描くという理由を見出すことができれば。
– 来田広大
「キューバ紀行」 個展に寄せたエッセイ note