あどけない空
個展《あどけない空 / Candid Sky》
会期:2020年12月16日(水)~2021年1月17日(日)
会場:ギャラリー昨明 (Caru) (福島県いわき市)
Statement
私はこれまで、山をフィールドワークの拠点とし、そこから臨む風景を地図のように捉え、土地 ・場所と人との関係を探りながら「今ここにいる」という認識を立ち上がらせることを作品制作の目的としてきた。
本展は、高村光太郎の詩集「智恵子抄」の一節「あどけない話」に着想を得たことから、2020年夏に登った安達太良山・一切経山でのリサーチが元となっている。「あどけない話」は、光太郎の奥さんの智恵子が病床に伏せたとき、「安達太良山の“ほんとの空”が見たい」、「東京には空がない」と言ったことから、後に光太郎が詩に残したものである。
“ほんとの空”とはどこから見たどのような空なのだろうか。 それを足でも確かめるために二本松から安達太良山へ向かったところ、私はその山行のなかで抜けるような空を見た。昨今の陰鬱とした日常を過ごしてきたため、それは今まで体験してきた山の風景とはどこか違う空気が漂い、吹き抜ける風もより一層心地よく感じた。
雲のように移り変わり、消え去っては立ち上がる風景の記憶。そのイメージの断片を、対象に直接触れるように一手一手、画面の中に定着させる。私の個人的な登山の経験から描かれる空が、見る人によってどのような空に映るのだろう。
この詩を読む人それぞれが異なる空を想像するように、尊く、何にも代えがたい風景として提示できればと思う。
撮影:小野一夫 協力:牧直美、吉本和樹